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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)82号 判決 2000年11月17日

主文

一  被告が原告らに対し平成八年一二月一八日付けでした別紙目録1記載の土地に係る平成六年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査申出に対する決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主文一項と同旨

二  被告が原告らに対して平成八年一二月一八日付けでした審査決定に係る別紙目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)に対する平成六年度固定資産課税台帳の登録価格のうち同目録2記載の平成五年度の登録価格を上回る部分を取り消す。

(なお、原告らは、本訴請求の趣旨として、右一、二項のとおり申し立て、右各請求の関係は選択的併合であるとする。

しかし、後記のとおり、地方税法(以下「法」という。)は、二項の請求のように固定資産評価審査委員会のした決定のうちの価格の一部のみを取り上げて、その取消しを求めることを予定していないというべきであること、一項、二項の各請求において、原告らが違法事由として主張するところは、いずれも、原告らが平成六年一月一日における本件土地の適正な時価と考える価格(平成五年度の固定資産課税台帳登録価格と同一の価格)を、被告の決定した価格が上回るという点にあること、原告らは、各請求の関係を選択的併合であるとして、違法事由が認められる場合に、いずれの請求を認容するかを裁判所にゆだね、二項の請求に固執するものではないことを明らかにしていることからすると、原告らの右各請求は、平成五年度固定資産課税台帳の登録価格を上回る点において被告の審査申出に対する決定には違法があると主張して、右決定の取消しを求めているものと理解するのが相当であり、結局、これらの両請求は同一の請求と理解するのが相当である。

すなわち、法は、固定資産税の納税者が、その納付すべき固定資産税に係る資産について固定資産課税台帳に登録された一定の事項について不服がある場合には、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる(法四三二条一項)とする一方、同委員会は、右申出を受けた場合においては、直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を行い、その申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をし、決定のあった日から一〇日以内に、申出人及び市町村長(東京都の特別区においては、法七三四条一項の規定により、東京都知事。以下同じ。)に文書をもって通知しなければならないとし(法四三三条一項、一二項(平成一一年法律第一五号による改正前の法においては同条八項。以下、同じ。))、右の決定に不服がある固定資産税の納税者は、その取消しの訴えを提起できるとしている(法四三四条一項)。右のとおり、取消訴訟の対象である固定資産評価審査委員会の決定は、固定資産課税台帳に登録された一定の事項についての審査申出人の不服申立てに対する同委員会の応答としてされるものであり、また、右決定において判断された価格は、後記のとおり、基準年度に係る賦課期日における当該固定資産の適正な時価という一個の評価的事実であるから、法は、右価格を可分なものであるとして、その一部に関する部分のみが取消訴訟において争われ、残部が別途に確定するという事態は予定していないというべきである。もし仮に同委員会の決定が可分なものであって、その一部のみの取消しを訴求することが認められるとすると、請求が認容された場合には、同委員会は審査申出に対して応答すべき義務の履行として改めて当該部分についての決定を行うべきこととなるが(行政事件訴訟法三三条二項)、その結果、右の新たな決定と訴訟の対象とならなかった決定の残部の両方が存在することとなり、これらの間の論理的な整合も期し難い結果を招来することとなり、実際上も不都合であると解される。

これに対し、判決において決定のうちの価格の一部又は全部を取り消した場合には、その部分については、固定資産評価審査委員会が改めて決定する義務は生ぜず、決定のうち取り消されなかった部分のみの効力が存続すると考える余地もなくはないが、右のような考え方は、行政事件訴訟法三三条二項の規定に反するうえ、審理の結果、係争部分の具体的な価格について真偽不明となれば、立証責任の原則に従い、右請求に係る部分の価格全部を取り消すべきこととなり、改めて同委員会の決定も行われないため、右の係争部分の価格は零円として確定することになると解さざるを得なくなるが、そのような結果が不合理であることは明らかであり、右の考え方を採用することはできない。

むしろ、法は、固定資産評価審査委員会の決定については、市町村長に対しても、右決定を文書をもって通知するものとし(法四三三条一二項)、市町村長は、その結果、既に固定資産課税台帳に登録された価格等を修正する必要があるときは、右通知を受けた日から一〇日以内にその価格等を修正して登録し、その旨を当該納税者に通知すべきものとしたほか(法四三五条一項)、同項の規定によって価格等を修正した場合においては、市町村長は、固定資産税の賦課後であっても、その修正した価格等に基づいて、既に決定した賦課額を更正すべきことを義務づけている(同条二項)が、判決の結果に基づいて、直ちに市町村長が固定資産課税台帳に登録された価格等を修正すべき事態が生じることを予定した規定は設けられていないことからすれば、法は、取消訴訟において固定資産評価審査委員会の決定のうち価格の認定に誤りがあると判断された場合には、改めて同委員会による決定がされることを前提としているというべきである。

ちなみに、固定資産評価審査委員会の決定が不可分であると解した場合、同委員会が認定した価格が「適正な時価」を上回るとして同委員会の決定を取り消す旨の判決がなされ、その理由中で「適正な時価」が具体的に認定判断されているときには、同委員会は、右判断の拘束を受けたうえで、改めて決定を行うべきこととなる。)

第二事案の概要

本件は、原告らがその所有に係る本件土地の平成六年度の土地課税台帳に登録された価格が「適正な時価」を上回ると主張して、審査申出を棄却した被告の決定の取消しを求めている事案である。

一  前提となる事実

1  原告らは、本件土地の所有者(原告Aの持分六三分の五三、原告Bの持分六三分の一〇)であって、本件土地の固定資産税の納税義務者である。

(甲五、弁論の全趣旨)

2  本件土地の平成五年度土地課税台帳の登録価格は別紙目録2記載のとおりであったが、東京都知事は、本件土地の平成六年度の価格を別紙目録3記載のとおり決定し、東京都目黒都税事務所長は、これを土地課税台帳に登録した。

(争いがない事実)

3  原告らは、平成六年四月二六日、被告に対し、右平成六年度登録価格を不服として、審査の申出をしたのに対し、被告は、平成八年一二月一八日、これを棄却する旨決定した(以下「本件決定」という。)。

(争いがない事実)

二  法令の定め等

1  固定資産(土地)評価に関する法の規定等

(一) 土地に対して課する基準年度(本件では平成六年度である。)の固定資産税の課税標準は、当該固定資産の基準年度に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年の一月一日、本件では平成六年一月一日である。法三五九条)における価格であり、右価格とは「適正な時価」(法三四一条五号)であって、土地課税台帳又は土地補充課税台帳(以下、これらを併せて「土地課税台帳」という。)に登録されたものである(法三四九条一項)。

(二) 土地課税台帳に登録される価格(以下、この価格を「登録価格」という。)の決定に際しての固定資産の評価については、自治大臣が、評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、告示しなければならないものとされ(法三八八条一項前段)、固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号。以下「評価基準」という。)が告示されている。

そして、市町村長は評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないとされ(法四〇三条一項)、固定資産の価格等を決定し、価格等を登録した場合には、その結果の概要調書を作成し、毎年四月中にこれを道府県知事に送付しなければならず(法四一八条)、道府県知事は右価格の決定が評価基準によって行われていないと認める場合においては、当該市町村長に対し、登録価格を修正して登録するよう勧告するものとされ、自治大臣は右勧告をするよう指示するものとされている(法四一九条一項、四二二条の二第一項)。

評価基準の取扱いに関しては、自治事務次官の依命通達(「固定資産評価基準の取扱いについて」昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号。以下「取扱通達」という。)が発せられている。

なお、自治大臣は、市町村長に対して、固定資産の評価に関する資料の作成又は助言による技術的援助を与えなければならず、また、道府県知事も、自治大臣の作成した資料の使用方法についての指導又は評価についての助言を与えなければならない(法三八八条三項、四〇一条)とされているが、これらは、自治大臣又は道府県知事に市町村の徴税吏員又は固定資産評価員に対する指揮権限を与えるものではない(法四〇二条)。

(三) 市町村長は、固定資産評価員から所定の手続による土地の評価に係る評価調書を受理したときは、毎年二月末日までに評価基準によって固定資産の価格等を決定し、これを土地課税台帳に登録しなければならない(法四一〇条、四一一条一項)。

2  評価基準が定めている宅地の評価方法の概要は、平成六年度においては、次のとおりである(評価基準第1章第3節)。

(一) 地目の現況が宅地である場合の土地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法による。なお、本件土地での評点一点当たりの価額は一円である。

(二) 各筆の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によって、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法」によって付設する。

(三) 「市街地宅地評価法」による宅地の評点数の付設

(1) 市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分し、当該各地区について、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域ごとに区分し(以下、右のとおり区分される状況が類似した地域を「状況類似地区」という。)、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められる標準宅地を選定する。

(2) 右標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外のその他の街路の路線価を付設するものとする。その際には、主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する土地との間における宅地利用上の便等の相違を総合的に考慮する。

(3) そして、各筆の宅地の評点数は、その沿接する路線価を基礎とし、各筆につき評価の対象とすべき画地を認定し、奥行のある画地、正面と側面あるいは裏面等に路線がある画地等の状況に従って、所定の補正を加える方式(画地計算法)を適用して付設する。

3  平成六年度の評価替えに関する通達等

(一) 自治事務次官は、平成六年度評価替えにあたり、取扱通達を一部改正する旨の通知(平成四年一月二二日自治固第三号。以下「七割評価通達」という。)を各都道府県知事あてに発した。

右通知の骨子は、土地の評価は、売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定する方法によるものであるとしていた従前の通達に、宅地の評価に当たっては、地価公示法による地価公示価格、国土利用計画法施行令による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格を活用することとし、これらの価格の一定割合(当分の間この割合を七割程度とする。)を目途とする、というものである。

(乙一)

(二) そして、自治省税務局資産評価室長は、地価変動に伴う鑑定評価価格の修正について、「平成六年度評価替え(土地)に伴う取扱いについて」と題する通知(平成四年一一月二六日自治評第二八号。以下「時点修正通知」という。)を各都道府県総務部長、東京都主税局長あてに発した。

これは、平成六年度の評価替えは、平成四年七月一日を価格調査基準日として標準宅地について鑑定評価価格を求め、その価格の七割程度を目標に評価の均衡化・適正化を図ることとしているが、最近の地価の下落傾向に鑑み、平成五年一月一日時点における地価動向も勘案し、地価変動に伴う修正を行うこととする、というものである。

(乙四)

4  東京都特別区における評価方法

東京都特別区においては、東京都知事が固定資産の価格を決定するものとされ(法七三四条一項、四一〇条)、評価の方法については、評価基準及び七割評価通達を取り込んだ東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領(昭和三八年五月二二日主課固発第一七四号主税局長決裁。以下「取扱要領」という。)及び東京都土地価格比準表(以下「比準表」という。)によることとされていた(以下、評価基準、取扱通達、七割評価通達、取扱要領及び比準表を「評価基準等」という。)。

(乙六、同一二)

三  本件決定の根拠(被告の主張。なお、当該事実について当事者間に争いがない事項は、その旨を末尾に記載した。)

1  本件土地の地目

本件土地の登記及び現況地目はいずれも宅地であり、主として市街地的形態を形成する地域における宅地に該当する。

(争いがない事実)

そこで、被告は、本件決定に当たっては、市街地宅地評価法により評価した。

2  本件土地が属する地域の用途地区区分

本件土地の付近は、正面路線の属する地区については、商業地区の周辺部等において、小規模店舗又は事務所等と住宅が混在している地区に該当し、二方路線の属する地区については、主として一般住宅が集合している地区に該当する。

(争いがない事実)

そこで、被告は、本件決定に当たっては、本件土地の正面路線の属する地区の用途地区区分を併用住宅地区とし、二方路線の属する地区の用途地区区分を普通住宅地区として評価した。

3  二方路線地

本件土地は、正面(南東側)と二方(北西側)に路線がある画地(二方路線地)であるが、こうした二方路線地の価格は、角地ほど優位性は認められないが、正面路線のみに接する画地の価格より一般的に高くなるものであるから、正面路線から求めた基本単価を補正する必要がある。

具体的には、正面路線のみに接するとした場合の基本単価に、副路線を正面路線とみなして計算した評点に当該用途地区の取扱要領付表3「二方路線影響加算率」によって補正した評点を加算して補正することになる。

4  標準宅地の選定

右の併用住宅地区及び普通住宅地区について、状況類似地区ごとに区分したうえで、その地区ごとに標準宅地を選定すると、次のとおりとなる。

(一) 正面路線に沿接する地区

目黒区α八八番三に所在する土地(以下「標準宅地a」という。)

(二) 二方路線に沿接する地区

目黒区α二五八六番八に所在する土地(以下「標準宅地b」という。)

(争いがない事実)

5(一)  標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価 一三六万〇〇〇〇点

標準宅地aに係る適正な時価については、価格調査基準日である平成四年七月一日時点の不動産鑑定価格二一〇万円を活用するとともに、平成五年一月一日までの六箇月の地価動向を勘案しマイナス七・一パーセントの時点修正を行い、その七割程度の価格をもって一三六万円とし、右価格に基づいて路線価を付設した。

(二)  標準宅地bに沿接する主要な街路の路線価 五六万七〇〇〇点

標準宅地bは地価公示地点であり、その平成五年地価公示価格は八一万円である。

(争いがない事実)

そこで、標準宅地bに係る適正な時価については、平成五年一月一日時点の地価動向を勘案するとされたことに件い、右地価公示価格八一万円を参考にして、その七割程度の価格をもって五六万七〇〇〇円とし、右価格に基づいて路線価を付設した。

(三)  本件土地に沿接する正面路線の路線価 一三六万〇〇〇〇点

標準宅地aに沿接する主要な街路と本件土地に沿接する正面路線とは一致する。

(争いがない事実)

そこで、右主要な街路の路線価と同じ路線価を付設した。

(四)  本件土地に沿接する二方路線の路線価 六一万八〇〇〇点

標準宅地bに沿接する主要な街路と本件土地に沿接する二方路線とを比較して、その格差を幅員、連続性等の街路条件一〇七パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件一〇二パーセント、商業密度等の環境条件一〇〇パーセント、容積率等の行政的条件一〇〇パーセントと算定し、これらを乗じた格差率一〇九パーセントを主要な街路の路線価五六万七〇〇〇点(前記(二))に乗じて、二方路線の路線価を付設した。

(計算式)

618,000=567,000×(1.07×1.02×1.00×1.00)

主要な街路路線価 街路 交通 環境 行政

格差率の補正処理は小数点第3位で四捨五入

路線価付設は有効数字上位3桁

6  画地計算法に基づく算定

(一) 本件土地の基本単価 一三六万〇〇〇〇点

(1) 正面路線から本件土地の奥行きは一五.〇メートルである。

(争いがない事実)

(2) そこで、取扱要領付表1に基づき、奥行価格補正率一・〇〇を正面路線の路線価一三六万〇〇〇〇点(前記5(三))に乗じて算出した。

(二) 二方路線の加算評点 一万八五四〇点

二方路線から本件土地の奥行きは一六・〇メートルである。

(争いがない事実)

(2) そこで、取扱要領付表1に基づき、奥行価格補正率一・〇〇を二方路線の路線価六一万八〇〇〇点(前記5(四))に乗じ、さらに、本件土地は普通住宅地区であるから、取扱要領付表3に基づき、二方路線影響加算率〇・〇三を乗じて算出した。

(計算式)

18,540=618,000×(1.00×0.03)

側方路線価 奥行補正 二方路線影響加算率

(三) 本件土地の単位地積当たりの評点 一三七万八五四〇点

本件土地の基本単価一三六万点(前記(一))に、二方路線の加算評点一万八五四〇点(前記(二))を加算した。

(四) 本件土地の評価額 二億一五七二万七七二〇円

右単位地積当たりの評点一三七万八五四〇点に本件土地の地積一五六・四九平方メートルを乗じて総評点を二億一五七二万七七二四点と算出し、これに評点一点当たりの価格一円を乗じて(一〇円未満切捨て)、本件土地の評価額を算定した。

四  当事者双方の主張

(原告らの主張)

1 賦課期日のすり替えの違法

法は、固定資産税の課税標準を賦課期日における価格と規定しているのであるから(法三四九条一項)、本件土地の評価は賦課期日である平成六年一月一日時点でしなければならない。

しかし、東京都知事は、時点修正通知に従い、平成五年一月一日以降賦課期日までの一年間の地価の下落を評価に反映させる方策をとらないまま、一年前の平成五年一月一日の高い時価をもって賦課期日の時価とすることによって、賦課期日の時価とすり替えて平成六年度の評価替えを行ったものであり、これによる評価は賦課期日を誤った違法な評価である。そして、被告も、同様の方法で本件土地の価格を算定したのであるから、本件決定は、法三四九条一項に反する違法な決定である。

仮に賦課期日の一年半前に価格調査基準日を設けることができるとしても、価格調査基準日以後も地価の下落が続いていることは公知の事実であるから、価格調査基準日と賦課期日との間の時点の違いについて適正に時点修正をすることが必要であるから、これをしていない評価は違法である。

なお、平成六年度の評価替えから七割評価通達によって土地の七割評価がされているが、七割評価が許されるとしても、後述のとおり七割評価というのは評価のアロアンス(謙抑性)を示しているものではなく、評価の上限を示しているものであるから、賦課期日の時価(地価公示価格)の七割水準を上回る評価は違法となるというべきである。

2 通達による評価額の大幅な引上げの違法

(一) 租税条例主義違反

固定資産税の課税標準は評価替えの年度(基準年度)の時価と定められているが(法三四九条一項、三四一条五号)、土地については税負担が重くならないようにするために時価すなわち評価額(地価公示価格)の一定の評価割合をもって課税標準とする二重構造(二元性)が採られてきている。

平成六年度の評価替えに当たり、東京都は土地に対する課税標準を地価公示価格の一五パーセント水準から一挙に七〇パーセントとする大幅な引上げを行った。

このような評価割合の大幅な引上げは、法令によるものではなく、通達によるものであるが、通達によるこのような評価割合の大幅な引上げは租税条例主義に違反するものであり、違憲、違法である。

地方税について法は基準法(枠法)としての効力しかもっていないものであるが、その法が固定資産税の課税標準を時価と定め、具体的な課税標準がその時価の範囲内で決められていても、長い間評価割合を地価公示価格の一五パーセント水準で運用してきていたものを、一挙に大幅に七〇パーセント水準に引き上げるには、税条例上の根拠すなわち納税者の同意が必要である。評価割合は納税者の税負担に直接影響を持つ課税要件そのものであるから、通達で評価割合を引き上げることができるということになると、租税条例主義が空文化する結果を招来する。

(二) 七割評価通達の合理性の欠如と虚構性

七割評価通達の主な根拠は、財団法人資産評価システム研究センターの土地研究委員会の報告書である。

土地研究委員会の構成は自治省税務局や地方自治体の財政部局のOBや現役が多数関与しており、その公正さについてはかねてから疑問が持たれている。そして、その報告書の中で七割評価の最大の論拠としているのは「昭和五〇年代の初頭から中頃にかけての地価安定期における固定資産評価の地価公示価格に対する割合が七割水準であった。」ということであるが、当時は地価公示価格は低く(五割水準程度)設定されていたから、実際の時価との割合は概ね三・五割からせいぜい四割程度であったといわれている。さらに、昭和五〇年前半は地価が確実に上昇していた時代であり、平成六年度の評価替えのころはそれとは全く逆に地価が値下がりしていたから、昭和五〇年度の評価割合をそのまま適用するのは不合理であり、七割評価は土地研究委員会で最初から与えられていた結論(命題)で、同委員会の研究の結果導き出された結論ではない。このように、七割評価通達にいう七割評価は根拠のない不合理なものであるから、七割評価通達を適用することは違法というべきである。

(三) 七割評価通達と平等原則違反

七割評価通達にいう七割という評価割合は評価のアロアンス(評価の謙抑性、固めの評価の要請)から定めているものではない。地価公示価格や不動産鑑定士による土地の鑑定評価額は土地の最有効使用を前提としているのに対し、固定資産税の評価は土地の通常の使用(収益価格)を前提としているから、この相違がもたらす開差を考慮したものであり、七割評価というのは固定資産税における土地評価の上限を示したものである。

すなわち、七割という評価割合を評価のアロアンスと考えると、地価の下落が七割を超えたものだけが違法となるが、この場合は地価そのもので評価額を算出していることになり、固定資産税の課税べースは評価額の七割としていることと不平等な取扱いとなる。

そして、本件土地の近傍に所在する地価公示地の地価及び相続税の路線価の平成五年一月一日から平成六年一月一日までの下落状況は、別表のとおりである。

そうすると、仮に七割評価が許されるとしても、基準年度の賦課期日(本件では平成六年一月一日)の評価額(地価公示価格等)の七割を超える評価は違法である。

3 評価基準の不合理性

評価基準は自治大臣告示(国家行政組織法一四条一項)で定めているものであり、取扱要領は通達(同条二項)にすぎず、いずれも法令ではなく法的拘束力を持つものではない。また、右告示が法三八八条一項によるものであるとしても、包括的な告示への授権は租税条例主義の原則から許されておらず、この点からも評価基準は有効なものとはいえないし、相続税の評価基準を定めている財産評価基本通達との整合性からいっても、通達と同じ性質のものにすぎないと解すべきである。

したがって、評価基準は通達と同じ性質のものであるから、その内容の法令適合性、合理性については、被告が積極的に主張、立証をすべきである。

また、評価基準は、大量の宅地を短期間で評価するための大雑把な基準であり、昭和三九年に作成されたものであって、セットバックの規制を受けていること、容積率以外の各種の高さ制限を受け実効容積率が低いこと、土地の面積が僅少であり、又は土地が接道義務を満たさないために建物建築が不可能な土地であること、都市計画施設の予定地となり著しく建築制限を受けていること、土地の形状が不整形で建物の建築に適さないこと等、一般に不動産鑑定評価において土地の価額の形成要因であると認められている事項が、評価基準において考慮されておらず、あるいは、考慮されていても著しく不十分である。

したがって、評価基準等に従っているといって、評価が適法となるものではなく、仮に時価の七割での評価が認められるとしても、そこで与えられた三割の余裕を平成五年一月一日から平成六年一月一日までの地価下落で埋めてしまうことは許されず、評価基準が大雑把な基準で、不備があり、不動産鑑定士の評価にも開きがあることからすると、評価基準等を適用した結果が賦課期日(平成六年一月一日)の時価の七割よりも高いものであれば、その評価は違法である。

4 本件土地の評価における個別的違法について

(一) 標準宅地aの平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価下落率の認定の違法

被告は、標準宅地aの平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価下落率をマイナス七・一パーセントとするが、これは右地価下落率をマイナス一一・七パーセントとする不動産鑑定評価書に反するものである。

評価基準には、標準宅地に沿接する主要な街路の路線価を相続税路線価の八分の七とする旨の規定はない。しかも、時点修正とは、ある期間の土地の価格の変動に基づいてなされるものであり、他の評価との均衡を図るために行われるものではない。

よって、標準宅地aの平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価下落率の認定は違法である。

(二) 本件土地が駒沢通りに沿接するとして評価することの違法について被告は、本件土地が駒沢通りに沿接するものとして評価しているが、本件土地と駒沢通りとの間には区管理地(花壇)が存在し、本件土地から駒沢通りへの出入りは不可能な状態にある。したがって、本件土地が駒沢通りに沿接するものとしてなされた本件評価は違法である。

また、仮に、本件土地が駒沢通りに沿接しているものとして評価することが可能であるとしても、本件土地と駒沢通りとの間に区管理地が存在することを考慮した評価がなされなければ、本件土地の「適正な時価」を評価したものということはできない。事実、標準宅地aの鑑定評価書は、本件土地に隣接する標準宅地aについて、同土地と駒沢通りとの間に区管理地があることを理由にマイナス一二パーセントの評価減を行っている。しかるに、本件土地については、かかる評価減は行われていないから、その違法性は明らかである。

これに対して、被告は、駒沢通りと本件土地の間に区管理地(花壇)が存在し、本件土地から駒沢通りへの出入りが不可能であっても本件土地は駒沢通りに沿接するものとして評価し、かつ、区管理地の存在はプラス要因になるとまで主張する。

しかし、右のとおり、標準宅地aの鑑定評価書は、標準宅地aと駒沢通りとの間に区管理地があることを理由として一二パーセントの評価減をしているのである。ところが、鑑定評価書は、街路との間に区管理地があることは、標準宅地aの特殊事情であるとして、区管理地が存在しない場合の価格を一平方メートル当たりの標準価格としているから、この標準価格を基に付設された主要な街路の路線価は、右区管理地がないものとして算定、付設されていることになる。

したがって、本件土地は、正面路線とされた街路との間に、本来一二パーセントを評価減すべき区管理地があるのに、これがないものとして評価されているから、本件土地の価格は、不当に高く評価されたもので、違法といわざるを得ない。

(三) 駒沢通りの騒音について

本件土地は、終日駒沢通りの騒音の影響を受ける土地であるのに、本件決定は、このような状況を看過して評価を行った違法がある。

これに対し、被告は、標準宅地aの鑑定においてかかる環境的影響は考慮されていると主張する。

しかし、標準宅地aの鑑定評価書は、標準宅地aの標準的使用を、通常の住宅地とは規模構造が異なるマンションの敷地として、しかも最有効使用の原則に基づいて評価を行っており、さらに、公示価格を規準とした価格の算定において、環境条件として繁華性のみを考慮しているのであって、住宅地としての悪い環境条件を考慮した評価がなされているとは考えられない。

よって、騒音について、標準宅地aの鑑定で考慮されているとする被告の主張は、失当である。

(被告の主張)

1 賦課期日から評価事務に要する一定期間を遡った過去の時点の時価を基準として、賦課期日における土地の価格を求めることは適法であること

(一) 法は、基準年度の賦課期日(本件では平成六年一月一日)から評価事務に要する一定期間を遡った過去の時点を価格調査基準日とし、右の時点の価格を「賦課期日における価格」(法三四九条一項)とみなすことまで、許容しているというべきである。

なぜなら、土地の固定資産評価に当たっては、①税負担の適正化・均衡化を図るため、評価基準に基づき、全国の土地を同一の基準で評価すること、②市町村による評価後にも都道府県間及び各都道府県内の市町村間における評価の均衡を図るため、それぞれ所要の調整を行ったうえで、二月末日までに価格を決定してこれを土地課税台帳に登録することが予定されているところ、これら一連の評価事務には、賦課期日を当該年度の初日の属する年の一月一日に遡らせただけでは対応しきれない相当の長期間を要するものと考えられ、基準年度の賦課期日から評価事務に要する期間を遡った時点の地価を基準として賦課期日における適正な時価を評価することは、法が当然に予定しているところと解されるからである。

(二) 右結論は、次のとおり、立法者の意思に合致する適正なものということができる。

すなわち、平成五年三月三一日、平成六年度評価替えに係る法の改正が行われたが、この改正法によれば、平成六年度から平成八年度までの価格の上昇による特例措置、平成六年度から平成八年度までの負担調整措置について、いずれも平成四年七月一日を価格調査基準日とする各都道府県の基準宅地価格を基礎として平成五年度課税標準に対する上昇率を算定し、それにより平成六年度から平成八年度までの課税標準を決定することとされている(法附則一七条の二、同一八条)。換言すれば、法は価格調査基準日の価格を基礎として、平成六年度から平成八年度までの固定資産税の課税標準を決定しているのであり、法が価格決定の基準日を価格調査基準日であるとしていることは明らかである。

また、評価基準に定める指示平均価額についても、平成五年一月一日時点の価格に基づき決定されている。

そうであるとすると、平成六年度の評価替えにおける価格算定基準日を、平成五年一月一日としたことは、法が当然に予定しているものというべきである。

(三) これに対し、原告は、価格調査基準日における価格を基礎として算定した価格が賦課期日における適正な時価を上回ると見込まれるときは、あらかじめ想定される価格下落率を折り込んで時点修正すべきであると主張する。

しかし、①宅地の鑑定評価に当たっては、不動産鑑定士が、「不動産鑑定評価基準」(平成二年一〇月二六日、土地鑑定委員会の国土庁長官に対する答申)によって評価するとされているところ、右基準によると、不動産の鑑定評価においては、一般的要因(自然的要因・社会的要因・経済的要因・行政的要因)、地域要因(宅地地域・農地地域・林地地域)、個別的要因の三つの価格形成要因を考慮して評価するとされているだけであり、将来の価格変動は鑑定評価の要因とはされていないこと、②将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握・分析及び最有効使用の判定についてすべて予測しなければならない上、収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ、極めて不確実にならざるを得ないことから、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項・総論」において、このような鑑定評価は行うべきではないとされていることより、不動産の鑑定評価に当たっては、将来の価格変動を考慮すべきではないから、原告の主張は妥当性を欠くというべきである。

(四) 仮に、法三四九条及び三五九条の文理に忠実に解釈して、固定資産の評価額は賦課期日すなわち当該基準年度の一月一日時点の価格でなければならないと解したとしても、本件土地の価格は違法ではないというべきである。

そもそも法は固定資産の評価額を適正な時価にすることまで許容しているのであるから、地価公示価格とほぼ同水準で固定資産の評価における適正な時価が定まることになる。そうであるとすれば、地価公示価格から三割を下回る価格を固定資産の評価額と定めると、適正な時価との比較では三割の余裕があることになり、その範囲が許容範囲となる。

しかも、時価というものは、その性格上、一義的に決まるものではない。なぜなら、売買取引事例を比較して当該土地の時価を算定してみても、土地の形状は一筆ごとに異なるし、売買当事者や取引時点が異なれば、当然に価格は変動するものであるからである。確かに、不動産鑑定評価額は、こうした不正常要素を可能な限り取り除いて客観的に求めた価格ではある。しかし、不動産鑑定理論に基づいて求められた不動産鑑定評価額についても、評価額に一定の幅が存することは経験則上明らかである。そうだとすれば、固定資産の評価における適正な時価とは、一義的に定まる価格ではなくある程度の幅を持つ価格と捉えるべきである。このように「適正な時価」を理解することは、法及び評価基準において、評価額を求めるためには個々の土地の不動産鑑定ではなく路線価方式で足りるとしていること及び各市町村間で基準宅地の適正な時価を調整する手続を要すると規定していることからも認められる。これを前提に考えると、固定資産の評価額として決定された価格を「適正な時価」と認めることが社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、右評価額は違法な価格というべきである。

2 七割評価通達について

(一) 法は、固定資産の評価額を「適正な時価」すなわち地価公示価格(これはおおむね時価と理解される。)とほぼ一致させることまで許容している。

すなわち、固定資産税は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準とすることを原則として、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下同じ。)に対して、資産の所有という事実に着目して課税する財産税である。それゆえ、資産が土地の場合には、土地の所有という事実に着目して課税されることになるから、個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か、土地が用益権又は担保権の目的となっているか否か、収益の帰属が何人にあるかを問わず、賦課期日における所有者を納税義務者として、その更地価格に着目して、課税することになる。

そうであるとすると、その課税標準又は算定基礎となる土地の「適正な時価」とは、「時価」の一般的概念に照らしても、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値(客観的時価)をいうものと解すべきである。

(二) そうだとすれば、七割評価通達を契機として平成六年度の評価替えの際に本件土地の登録価格が引き上げられたとしても、通達の内容が法令の正しい解釈に合致するものである以上、本件土地の登録価格の決定は法令の根拠に基づいてなされた適法なものであることは明らかである。

(三) これに対して、原告は、たとえ法律に通達の内容が合致するとしても、固定資産税についていわゆる「二割評価」が長年にわたり広く実施されてきたことからして、通達に基づいて評価額を引き上げることは租税条例主義に違反すると主張する。

しかし、①「適正な時価」が客観的時価を意味する以上、減額評価の違法は原告に有利になることはあっても不利となるものではないから、価格決定の違法事由とはならないこと、②国民に納税義務を定める租税法において、課税標準が納税者の信頼(慣習)によって決定される余地はないこと、③地価公示価格と登録価格の割合は、昭和五〇年代には約七〇パーセント、場所によっては一〇〇パーセント近い地点も存したのであるから、原告の主張するように「登録価格は公示価格の二割以下である」との法的確信が過去三〇年以上にわたり国民(住民)に形成されていたとは認め難いこと、④登録価格は、地価公示価格の二割以下とする旨の通達又は原告への言明、教示は存在しなかったこと、⑤法的安定性、法予測可能性は、あくまで登録価格についてではなく、税額について問題とされるべきところ、税額に関しては負担調整措置の導入等により、緩やかに変化するように規定されたから、法的安定性等は侵害されていないことからして、原告の主張は妥当性を欠くというべきである。

(四) 平等原則違反の主張に対する反論

法は、固定資産の評価額を地価公示価格と一致させることまで許容しており、固定資産税の資産評価につき時価以下の一定率で評価の均衡を求める規定は法律上存しないから、市町村長は、時価による評価の均衡を図るべきであって、時価を下回る一定率での評価の均衡を図る必要はないというべきであり、適正な時価と登録価格とを区別する原告の主張は失当である。

また、七割評価通達の趣旨が、仮に原告の主張するように収益価格への配慮又は公的評価制度における価格の一元化を目指すものであって、賦課期日までの時点修正を目的とするものではないとしても、評価基準の適用においては、七割評価による修正を経た価格が賦課期日における標準宅地の適正な時価とされるのであるから、登録価格が賦課期日における適正な時価であるかどうかは右修正を経た価格について判断されるべきである。

3 評価基準に法的拘束力があること

(一) 法は、固定資産税に関して、昭和三七年三月三一日法律第五一号地方税法の一部を改正する法律(以下「昭和三七年改正法」という。)において、右改正前の法四〇三条一項が「市町村長は、(略)自治大臣が示した評価の基準並びに評価の実施方法及び手続に『準じて』、固定資産の価格を決定しなければならない。」としていたのを、「市町村長は、(略)第三八八条第一項の固定資産評価基準に『よって』、固定資産の価格を決定しなければならない。」と改正した。

これは、①改正前の固定資産評価基準が市町村長に対する一つの参考にすぎないと理解されていたため、市町村の固定資産の評価が地域によりまちまちとなっていたところ、評価方法が各市町村において異なるようでは納税者間の公平を期すことができないため、固定資産の評価の均衡を図る必要があること、②処分庁が短期間に大量の固定資産について個別に評価することは現実的に極めて困難なため、評価事務の簡便さを図る必要が生ずることより、両者の要請を調整すべく、自治大臣に評価基準の定立を委任したのである。

そうであるとすると、条文の文理解釈及び右立法趣旨からして、評価基準に依拠することが不可欠であり、法的拘束力が認められるべきである。

右結論は、昭和三七年改正法が、法三八八条一項として「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。」とする規定を新たに設け、右規定を受けて、従来は自治事務次官の依命通達によっていた評価基準を告示することに変更したことからも明らかである。なぜなら、改正の結果、評価基準は、通達とは異なり、法令と同様に官報に掲載されて、一般に告知されることになったからである。

(二) これに対し、原告は、租税条例主義の原則からすると、告示への包括的授権は許されないと主張する。

しかし、①租税法の対象とする経済事象は極めて多種多様であり、しかも激しく変遷していくので、これに対応する定めを法律の形式で完全に整えておくことは困難であること、②現実に公平課税等の租税原則を実現するためにも、その具体的な定めを命令に委任し、事情の変遷に伴って機動的に改廃していく必要があるのは否定できないことからすれば、すべて法律で規定しなければならないと解することは適当ではない。

そこで、固定資産税の課税要件の内容の一つである課税標準については、法三四九条一項で明記することとし、その具体的、細目的、技術的な算定基準を自治大臣の告示にゆだねたのであるから、立法形式の点からいっても、評価基準は市町村の固定資産評価に当たって法的に基準たり得ることになる。

(三) 以上によれば、昭和三七年の法改正後は、評価基準と異なる評価方法を採用することは許されなくなったのであり、市町村長は、評価基準に従った評価をなすべく義務づけられているものと解するのが相当である。

したがって、本件土地の価格は、評価基準に従って決定された以上、その価格は適法というべきである。

4 本件土地の正面路線等の路線価の付設及び画地計算について

(一) 標準宅地aに係る適正な時価を一三六万円としたことの合理性

(1) 標準宅地aの平成四年七月一日時点の不動産鑑定評価額二一〇万円は、専門家である不動産鑑定士の鑑定により評価された評価額であるから、これを参考に標準宅地aの価格を決定したことは適当である。

(2) 平成四年七月一日から平成五年一月一日までの時点修正率をマイナス七・一パーセントとしたことの合理性

不動産鑑定士は、標準宅地aの平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価の変動率を、バブル崩壊後の地価下落傾向、特に商業地に顕著な地価動向及び目黒区内商業地の取引事例価格等を参考に、マイナス一一・七パーセントと認定したものであり、右認定には十分な合理性がある。

しかし、不動産鑑定理論に基づいて求められた不動産鑑定評価額についても評価額に一定の幅が存することは経験則上明らかである。

そして、本件決定において時点修正率の再調整を行ったのは、土地基本法一六条の趣旨を踏まえ、公的価格の一元化の要請に応えるべく、相続税路線価との均衡にも配慮したからである。

そうであるとすれば、鑑定で求められた時点修正率を再調整した時点修正率マイナス七・一パーセントにも十分な合理性がある。

(3) そして、仮に、本件土地の評価額が平成六年一月一日時点の「適正な時価」を超えないことを要するとしても、本来、法は固定資産の評価額を適正な時価にすることまで許容しているにもかかわらず、東京都知事は、あえて三割減価補正した価格を評価額として決定している。

そうであるとすると、標準宅地aを鑑定評価するに当たり規準とした地価公示地(β五―三)の平成五年一月一日から平成六年一月一日までの地価変動率がマイナス二六パーセントで三〇パーセントを超えない以上、標準宅地aの価格一三六万円が「適正な時価」の範囲内にあることは明らかである。

(二) 本件土地が正面路線(駒沢通り)に沿接するとしてなされた評価の合理性について

原告らは、本件土地と駒沢通りとの間に区管理地(花壇)が存在し、本件土地から駒沢通りへの出入りは不可能な状態にあるから、本件土地が駒沢通りに沿接するものとしてなされた本件評価は違法であると主張する。

しかし、①駒沢通り沿い一体は歩道部分に街路樹が植樹されているうえ、本件土地の前面に存在する花壇等は途中数箇所で切れていて、そこから駒沢通りに往来できるようになっていること、②相続税路線価も、本件土地の前面の花壇等の有無に応じて、異なる路線価を付設しているわけではないこと、③原告らの主張によると、本件土地はいかなる道路と沿接することになるのか不明であるが、目黒区役所に問い合わせたところによると、建築確認をするに当たり、駒沢通りに接面しているものとして建築確認がなされることから、駒沢通りに沿接するものとしてなされた本件評価は妥当である。

これに対して、原告らは、仮に本件土地が駒沢通りに沿接しているものとして評価することが可能であるとしても、本件土地と駒沢通りとの間に区管理地が存在することを考慮した評価がなされなければ、本件土地の適正な時価を考慮したものということはできないと主張する。

しかし、本件土地と交通量の頻繁な駒沢通りとの間に区が管理する花壇が存在することは、住宅地にとって原告らの主張するようにマイナスの影響だけがあると言い切れるかは疑問といわざるを得ず、むしろ、環境面を配慮すれば、プラス要因になるとさえいい得るのである。とすれば、マイナス要素だけを殊更に強調する原告らの主張は妥当性を欠く。

右結論は、区管理地の存在を考慮しなくとも、公的価格の一元化の要請にかんがみて、右正面路線について相続税の路線価との均衡が図られていることからも、その妥当性が裏付けられる。

① 固定資産税路線価 一三六万円

② 相続税路線価 一五六万円

①+② 八七・二パーセント

(三) 騒音について

原告らは、本件土地が終日駒沢通りの騒音を受けているのに、かかる状況を看過して評価がなされているから違法であると主張する。

しかし、本件土地と同様に標準宅地aも駒沢通りに沿接しているのであり、かかる環境的要因は標準宅地aの鑑定評価に当たり織り込み済みであるから、原告らの主張は失当である。

これに対し、原告らは、標準宅地aの鑑定評価書に騒音についての記載がないと主張するが、不動産鑑定士が鑑定に当たり評価した内容がすべて鑑定評価書に記載されているとはいえないし、そもそも標準宅地aの鑑定に当たり基準とした地価公示地(β五―三)も駒沢通りに面しているから、評価書に特段の記載がなくとも評価に織り込まれていることは明らかである。

五  争点

本件の争点は、次の各点である。

1  時点修正通知に基づく本件土地の評価の適法性の有無(争点1)

2  七割評価通達に基づく本件土地の評価の適法性の有無(争点2)

3  評価基準等の合理性の有無(争点3)

4  本件土地の評価の個別的違法の有無(争点4)

第三争点に対する判断

一  争点1及び2について

1  「適正な時価」の意義

固定資産税は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準とすることを原則として(法三四九条一項、三四九条の二)、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定のある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下同じ。)に対して(法三四三条一項)、資産の所有という事実に着目して課税される財産税であり、資産が土地の場合には、土地の所有という事実に担税力を認めて課税するのであって、原則として、個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か、土地が用益権又は担保権の目的となっているか否か、収益の帰属が何人にあるかを問わず、賦課期日における所有者に対し、課税されるものである。

このような固定資産税の性質からすると、その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」(法三四一条五号)とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値(以下、これを「客観的時価」という。)をいうものと解すべきである。

2  「適正な時価」の算定基準日

そして、法は、土地課税台帳に登録すべき価格を基準年度に係る賦課期日における価格としているのであるから(法三四九条一項)、右登録価格は、賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日(本件では、平成六年一月一日)時点を基準日として、同日における客観的時価をもって算定すべきであって、これと異なる時点における客観的時価をもって賦課期日における価格とみなすことは許されないというべきである。

ところで、法は、市町村長の価格決定は、毎年二月末日までに行うべきものとしている(法四一〇条)ところ、右の価格決定の作業に従事し得る人的資源には限りがあるのに対して、課税対象となる固定資産が極めて大量に存在することからすれば、前記の賦課期日において価格調査を行った上で、その後の二箇月間のうちに「適正な時価」を算定する諸手続を完了することは、実際上困難であり、法が、賦課期日における価格算定の資料とするための標準宅地等の価格評定について、賦課期日からこれらの評価事務に要する相当な期間をさかのぼった時点を「価格調査の基準日」としてこれを実施することを禁じていると解すべき根拠も見当たらないことからすれば、価格調査の基準日が賦課期日の一年半前であったとしても違法とはいえないというべきである。

しかしながら、土地課税台帳に登録すべき価格は、前記のとおり、あくまで賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日における客観的時価であるから、右の調査結果に基づいて、賦課期日における客観的時価を算定するに当たっては、その間の時点修正を行うべき必要があることは当然である。

なお、自治省税務局資産評価室長が発した時点修正通知は、標準宅地の評価額を価格調査基準日のそれに固定するのではなく、時点修正を行うべき旨の技術的援助と解され、これによって、さらに賦課期日までの時点修正を行うべき必要性を否定する趣旨のものとは解されない。

3  評価基準による評価と客観的時価との関係

適正な時価の意義を前記のように解すると、土地の適正な時価の算定は、鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的、具体的に鑑定評価することが最も正確な方法ということになる。

しかし、課税対象となる土地は極めて大量に存在することから、限りある人的資源により、時間的制約の下で、右のような評価を実施することが困難であることは明らかである。

そこで、法は、これらの諸制約の下における評価方法を自治大臣の定める評価基準によらしめることとし、併せて、極めて大量の固定資産について反復、継続的に実施される評価について、各市町村の評価の均衡を確保するとともに、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとしているものということができる。

もっとも、右の評価基準は、各筆の土地を個別評価することなく、諸制約の下において大量の土地について可及的に適正な時価を評価する技術的方法と基準を規定するものであり、宅地評価についてみれば、個別鑑定と同様の方法で標準宅地の客観的時価を算定し、価格形成要因の主要なものに関する補正等を加えて、対象土地の価格を比準評定するものであって、宅地の価格に影響を及ぼすべきすべての事項を網羅するものではないから、標準宅地の評定及び評価基準による比準の手続に過誤がないとしても、個別的な評価と同様の正確性を有しないことは制度上やむを得ないものというべきであり、評価基準による評価と客観的時価とが一致しない場合が生ずることも当然に予定されているものというべきである。

そして、このように、評価基準等による評価方法には誤差が生じるおそれがあることからすれば、少なくとも評価額が客観的時価を超えるという事態が生じないように、あらかじめ減額した数値をもって計算の基礎となる標準宅地の「適正な時価」として扱うことは合理的な方法というべきであり、また、評価手続上、賦課期日の時価が予測値にならざるを得ず、地価が下落する可能性も排除できないことに照らしても、課税標準の特例以外であっても一般的な負担軽減方法として「適正な時価」をあらかじめ控え目に評定することも、固定資産の価格を当該固定資産の「適正な時価」と定めた法の趣旨に反しない限度で許されるものというべきである。

したがって、その意味では、公示価格の算定と同様の方法で評価した標準宅地の価格のおよそ七割をもって、その適正な時価として扱うことも、法が禁ずるものではなく、右のような趣旨において七割評価通達には合理性が認められ、これに従った評価を行ったことには違法がないというべきである。

4  原告は、七割評価通達は、固定資産税の評価においては土地の通常の使用(収益価格)を前提とすべきであるにもかかわらず、地価公示価格や不動産鑑定士による鑑定評価額が土地の最有効使用を前提として行われることから、その開差を考慮したものであり、七割評価は土地評価の上限を示したものであって、基準年度の賦課期日の評価額(地価公示価格)の七割を超える部分は違法であると主張する。

しかし、固定資産税は、土地の所有という事実に着目して課税されるものであって、個々の具体的な収益に着目して課税されるものでないことは前述のとおりであり、七割評価通達の本来の趣旨が賦課期日までの時点修正を目的とするものではないとしても、評価基準を適用し、七割評価による修正を経て算定された価格が賦課期日における客観的時価を上回らない限り、この点で、固定資産評価審査委員会が行った決定に違法があるとはいえないというべきであるから、原告の右主張は採用できない。

また、従前の評価額が時価に比して著しく低額であったとしても、そのような低い価格をもって法及び評価基準の前提とする「適正な時価」であると解することができないことは既に説示したとおりであるから、七割評価通達に従った結果、評価額が従前の評価額を上回ることとなったとしても、この点をとらえて、租税条例主義に違反するとは解されない。

したがって、これらの点に関する原告の主張は採用することができない。

5  以上によれば、登録価格の違法に関する判断は、①評価方法の選定、標準宅地の選定、標準宅地の価格と基準宅地の価格との均衡及び標準宅地の評価額から対象土地への比準の方式が評価基準及び市町村長の補正に関する基準(取扱要領等)に従ったものであるかどうか(基準適合性)、②右評価基準等が一般的に合理性を有するかどうか(基準の一般的合理性)、③評価基準による評価の基礎となる数値、すなわち、標準宅地の価格が賦課期日における適正な時価であるかどうか(標準宅地の価額の適正さ)が審理されるべきこととなる。

なお、既に説示したとおり、評価基準による評価が複数の評価要素の積み重ねを通じて結論において「適正な時価」に接近する方法であることからすると、評価基準に定める個別的評価要素が具体的な土地の特殊性に照らして適切さを欠くとみえる場合があるとしても、一般的に合理的とされる評価基準による評価が客観的時価を超えないときは、これを違法とすることはできず、また、評価基準による評価が客観的時価との不一致の程度の個別的相違を許容していることに照らせば、右事情があるとしても、なお、評価基準等に合致した右評価は公平の原則に適合するものというべきである。

しかし、前記のような評価方法は、一定の期間内に限られた人的資源をもって、極めて大量に存在する課税対象土地の評価を遂げなければならないという制約の下で可及的に「適正な時価」に接近するための方法として許容されているものであり、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回ることまでも許容するものではないから、前記①ないし③の事由が立証されたとしても、結果としての登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回るときは、その限度で登録価格の決定は違法になるというべきである。

二  争点3について

1  評価基準第1章第3節によれば、本件土地のように主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、市街地宅地評価法によって評価する旨が定められている。

この評価法は、いわゆる路線価方式による評価法であるが、路線価方式は、大量の宅地を短期間に相互の均衡を考慮しながら評価する方法として使用できるものと一般に解されており、評価基準において路線価方式を採用したことには一般的な合理性があるということができる。

2  また、評価基準は、市街地宅地評価法における各街路の路線価は、売買実例価額を基礎として、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等及び各街路の路線価の均衡等を総合的に考慮して決める旨定めているが、右のような方法は鑑定評価の方法として不相当なものではなく、客観的時価への接近方法として合理性を有するものということができ、評価基準の定める画地計算法についても、宅地を評価する基準・方法として合理性を欠くという事情も見当たらない。

さらに、東京都特別区においては、前記第二の二4のとおり、取扱要領及び比準表を定めているが、証拠(乙六、同一二)及び弁論の全趣旨によれば、取扱要領及び比準表は、評価基準に従ってより具体的に価格の算定方法を規定したものと認められ、宅地を評価する基準・方法として合理性を欠くといった事情は認められない。

3  したがって、評価基準における市街地宅地評価法は、全体として「適正な時価」への接近方法として合理的であって、法の委任の趣旨に従ったものであるということができ、また、取扱要領及び比準表の定めも、全体として客観的時価への接近方法として合理性を有するものということができる。

三  争点4について

1  標準宅地aの賦課期日における適正な時価について

(一) 証拠(乙八、同一三)中に記載された鑑定評価の根拠に照らせば、被告主張に係る標準宅地aの平成四年七月一日における一平方メートル当たりの評価額二一〇万円は、当時の客観的時価であったことが推認され、右推認を覆すに足りる事情は本件全証拠によっても認めることはできない。

(二) 平成四年七月一日から平成五年一月一日の間における標準宅地aの地価下落について

証拠(乙八、同一三、同一五)によれば、不動産鑑定士Cは、右期間における標準宅地aの地価下落率を一一・七パーセントと鑑定したが、その根拠は、バブル崩壊後の地価下落傾向、特に商業地の地価下落傾向が著しいこと、目黒区内の商業地の取引事例価格等を総合的に勘案し、平成四年一月一日から平成五年一月一日までの目黒区内の商業地の価格が通じて二〇パーセント以上の下落を示すと判断したことによるものであることが認められる。

右鑑定評価の根拠に照らせば、右期間における標準宅地aの客観的時価の下落率は一一・七パーセントであったことが推認され、右推認を覆すに足りる事情は本件全証拠によっても認めることはできない。

これに対し、本件決定は、右期間の時点修正率をマイナス七・一パーセントと決定しているが、その理由は、証拠(乙八)によれば、標準宅地aに沿接する正面路線の固定資産路線価と相続税路線価との比を、適正な比とされる七対八にするために、右期間の時点修正率で調整したことによるものであることが認められる。

このように、本件決定は、客観的な価格変動とは異なり、相続税路線価との調整という公的評価相互間の調整のための配慮から、価格評価の専門家である不動産鑑定士の評価に修正を加えるものである。

確かに、相続税路線価は、地価公示価格の評価水準の原則として八〇パーセントとなるように決定されているものの、価格の正確性においては地価公示価格の方が勝っており、標準宅地aについて、相続税路線価に比準した価格が、右不動産鑑定士の鑑定によるよりも、より客観的時価に近接すると認めるに足りる証拠がない以上、マイナス七・一パーセントを時点修正率として採用することは、客観的時価の評価の見地から是認することはできない。

よって、右期間における標準宅地aの地価下落率は一一・七パーセントと認めるのが相当である。

(三) 平成五年一月一日から平成六年一月一日の間における標準宅地aの地価下落について

証拠(乙八、同一三)及び弁論の全趣旨によれば、標準宅地aの鑑定評価に当たり、その公示価格に時点修正率、個別的要因の標準化補正率及び地域要因格差の修正率を乗じて標準宅地aに係る規準価格算定の基礎とされたβ五―三(目黒区γ四八四番五、住居表示は目黒区γ二三番一六号)の公示価格は、右期間において、二一〇万円から一五五万円まで二六・二パーセントの下落があったことが認められる。

ところで、一般に、地価公示価格は、都市及びその周辺の地域等において、標準地を選定し、その正常な価格を公示することにより、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もって地価の形成に寄与することを目的とするために、地価公示法により公示される(同法一条)ものであって、その算定に当たっては、土地鑑定委員会は、二人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格を判定するものである(同法二条)から、地価公示価格は、当該土地の基準日における正常取引価格に極めて近似すると解される。

そして、地価公示の標準地が、土地の用途が同質と認められるまとまりのある地域において、土地の利用状況、環境、地積、形状等が当該地域において通常であると認められる一団の土地が選定されていること(地価公示法施行規則二条)、並びに標準宅地aと右公示地の近接性及び状況の類似性に照らせば、右期間内の標準宅地aの地価下落率も二六・二パーセントであったと認めるのが相当である。

(四) そうすると、平成六年一月一日における標準宅地aの適正な時価は、平成四年七月一日時点の標準宅地aの一平方メートル当たりの不動産鑑定価格二一〇万円に、同日から平成五年一月一日までの時点修正として八八・三パーセント及び同日から平成六年一月一日までの時点修正として七三・八パーセントを乗じた一三六万円(上位四桁以下を切捨て)と認めるのが相当である。

したがって、被告が賦課期日における標準宅地aの適正な時価を一三六万円と認定したことに違法はない。

2  標準宅地bの賦課期日における適正な時価について

証拠(乙九)によれば、標準宅地bは、地価公示地(β―二)でもあることが認められるが、前記のとおり、地価公示価格は当該土地の基準日における正常取引価格に極めて近似すると解される。

そして、弁論の全趣旨によれば、地価公示地(β―二)の平成六年一月一日における価格は六八万円であることが認められるところ、本件決定は、右地価公示地(標準宅地b)の適正な時価を、五六万七〇〇〇円と認定しているのであるから、右認定が、当時の標準宅地bの客観的時価を上回る価格を認定したものでないことは明らかである。

3  本件土地が正面路線に沿接するとしてなされた評価の合理性について

(一) 証拠(甲五、乙七、同八、同一〇、同一三、同一四、同一七)によれば、次の各事実が認められる。

(1) 本件決定は、本件土地に沿接する正面路線を駒沢通りと認定してなされたものであり、右正面路線に沿接する地域の標準宅地として選定され出た標準宅地aは、本件土地の北東側に隣接する土地である。

(2) 本件土地及び標準宅地aと駒沢通りの間には幅約七メートルの花壇通路のある区管理地があり、右花壇は途中で切れている箇所があるだけであるため、本件土地及び標準宅地aは、いずれも駒沢通りとの接面状態は良くない。

(3) 建築確認においては、右区管理地があるにもかかわらず、本件土地は駒沢通りに接面するものとして取り扱われている。

(4) 不動産鑑定士Cは、平成四年七月一日時点の標準宅地aの一平方メートル当たりの価格について、これを標準的画地であるとした場合の標準価格を二一〇万円と鑑定するとともに、標準的画地と比較した標準宅地aの個別的減価要因について、不整形であるための減価をマイナス三ポイント、標準宅地aと駒沢通りとの間に区管理地があることによる減価をマイナス一二ポイント、合計でマイナス一五ポイントと判断して、右減価要因を考慮した価格を一七九万円と鑑定した。

(5) 本件決定は、標準宅地aを標準的画地であるとした場合の価格に基づいて、標準宅地aに沿接する主要な街路及び本件土地に沿接する正面路線の各路線価を付設し、これらに基づいて本件土地の価格を算定したものである。

(二) ところで、取扱要領第九節第5の3(3)、第九節第8の9は、路線に接していない画地を無道路地として価格の補正を行うものと定めているところ、これは、都市計画区域内においては無道路地に関して建築物の建築ができないこと(建築基準法四三条一項)及び東京都建築安全条例による敷地等と道路の関係の制限を考慮したものであると解される。

したがって、本件土地は、建築確認において駒沢通りに接面するものとして取り扱われる以上、本件決定がこれを駒沢通りに接面しない土地と認定しなかった点に違法はない。

(三) しかし、不動産鑑定士Cが、標準宅地aの鑑定評価に当たって、区管理地があるために駒沢通りとの接面状態が良くないことによる減価をマイナス一二ポイントと判断しているにもかかわらず、本件決定においては、標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価を、右減価要因を捨象した標準的画地の価格に基づいて算定し、これと本件土地に沿接する正面路線の路線価は同一であるとしているから、右減価要因を全く考慮することなく本件土地の価格を算定しているというべきである。

これに対し、被告は、花壇の存在はマイナスの影響だけではなく、環境面を考慮するとプラス要因もあると主張するが、不動産鑑定士Cが花壇の存在が環境面に与える影響を考慮しなかったことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、環境面に与える影響を考慮しても、区管理地の存在は、本件土地の評価に当たっても、マイナス一二パーセントの減価要因になるというべきである。

そして、七割評価通達に従った場合に生ずる評価誤差の許容範囲が三割あるものの、標準宅地aの平成六年一月一日までの地価下落を考慮すると(前記1(四))、もはや許容範囲はないから、本件土地の評価に当たり右減価要因を考慮しないと、本件土地の客観的時価を上回る評価をする結果となるというべきであるから、この点において、本件決定は違法である。

4  騒音について

原告らは、本件土地は駒沢通りの騒音を終日受けているにもかかわらず、本件決定にはこれを看過した違法があると主張する。

しかし、本件土地に隣接する標準宅地aも同様に駒沢通りに沿接しており、駒沢通りから受ける影響は、環境的要因も含めて、標準宅地aを標準的画地であるとした場合の標準価格の鑑定評価に当たり考慮済みの事項であるというべきであるから、原告らの主張は失当である。

四  結論

1  以上によれば、本件土地の価格は、次のとおり算定される。

(一) 本件土地の基本単価 一一九万六八〇〇点

本件土地に沿接する正面路線の路線価一三六万点に、前記のとおり区管理地が存在することによる減価を行った。

(計算式)

1,196,800=1,360,000×(1―0.12)

(二) 本件土地の単位地積当たりの評点 一二一万五三四〇点

右基本単価一一九万六八〇〇点に、前記の二方路線の加算評点一万八五四〇円を加算した。

(三) 本件土地の評価額 一億九〇一八万八五五〇円

右単位地積当たりの評点一二一万五三四〇点に本件土地の地積一五六・四九平方メートルを乗じて総評点を一億九〇一八万八五五六点と算出し、これに一点当たりの価格一円を乗じて(一〇円未満切捨て)、本件土地の評価額を算定した。

2  よって、本件決定は、本件土地の価格を一億九〇一八万八五五〇円を上回る二億一五七二万七七二〇円と認定した点において違法であり、原告らの請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

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